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MangaBBB'sートライビースー
──殺戮と復讐のための契約…愛と憎悪の行く末は。
現代から、約20年前。一組の男女が裏社会を震撼させた。
スペインマフィアに立ち向かう「復讐者」、そして巻き込まれたひとりの外科医。
ふたりとその周辺の活劇を描く、ノワール・バイオレンスラブロマンス。
※本作はコミックではなくノベルです。
内容にはゴア・バイオレンス描写やその他残酷な表現が含まれる可能性があります。
上記表現が苦手な方は、閲覧をご遠慮ください。
Episodes
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舞台はスペイン・バルセロナの船着き場。 臆病な医師アルフレッドはマフィアの闇取引に巻き込まれ、命の危機に瀕する。 ──彼を救ったのは漆黒の長髪をなびかせた白い瞳の女…通称「死神」だった。
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臆病なアルフレッドは、震える声で制止し女の暴力を止めようとする。 しかし、彼女は構わず戦闘を続ける…マフィアが殺意を矛に収めなかったからだ。 死神─もとい、榊 良子は静かに会釈をした。 …が、次の瞬間。 彼女は日本刀を抜き放ち、マフィアたちに向かって突進した…ように見えた。 「サヨウナラ」 ─血飛沫が舞う。 気が付くとマフィアのひとりが袈裟斬りにされ、肉塊となって崩れ落ちていた。
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加院アルフレッド、23歳。 異例の早さで大学院を卒業した、アイスランド人と日本人の血を引く「天才」である。 専門分野は外科、メスを入れ人を治すことには慣れたもの。 無論、凄まじい数の重傷者を見てきた。 医療に従事し、先の冷戦では戦地にも赴いている。 そんな希代の才が、たった独りの女にここまで畏怖するとは …想像ができようか? 彼が見てきたどんな近代兵器よりも ──「彼女」はおぞましい。 良子の圧倒的な強さに、彼は恐怖よりもむしろ「畏敬」の念を抱いていた。
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バルセロナの港を出た船は、一直線に逃亡先へと進む。 どこへ行くのかも知れず…アルフレッドは「死神」と同じ船で揺られていた。 船のデッキに座り込む「死神」、榊 良子。 しかし、その右手は常に腹を押さえたまま……。 ──血の轍は死神から男に注がれ、新たな火種を生む。
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この場で彼女を救えるのは、彼ひとり。 …落ち着け、アルフレッド…僕が…僕が、やるしかないんだ。 震える手で、針と鉗子を彼は握り直し… 「死」へ立ち向かう覚悟を決めた。
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Hagamos un trato, Cortés. (──契約をしましょう、ジェントル) その場に轟く…低く、妖艶で、訛りのない…ひどく無機質なスパニッシュ。 まるで凍てついた冬の風のように、アルフレッドの心を凍りつかせ…動きを止めさせた。 ──生殺与奪を握る良子の言葉は、絶対的な命令。 アルフレッドの自由意志を否定し、彼を支配下に置く、残酷な死刑宣告だった。
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──恐怖で体が硬直した。 逃げることも、抵抗することもできない。 ただただ、この女の声を待つことしかできない哀れな男は耳をそばだてて次の言葉を待つ。 次の瞬間…女はゆっくりと口を開き、命令を下した。 「今から語る言葉、一言一句…残さず契約書に書き留めなさい。念のため録音も録っておきます…愚かな貴方が道を違えぬよう」 「…ひとつだけ聞きたい。 ……貴女は、なんのために僕を拘束した?」 「……復讐の、ためだと言ったら?」 なんの躊躇いもなく、良子の口からは「復讐」の2文字が飛び出す。 恐らく遠く離れた異国… ──日本から来たであろう女の口からは、滅多に聞けないであろう言葉だった。
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────フランスのこの言の葉を知らぬ人へ。 espritーエスプリーとはかくなるものである。 軽妙洒脱── 辛辣な言葉を的確に選び述べる 類いまれなる才を、このように呼ぶ。 ──つまりは乾いた知的な営みを、死神は非常に好んだ。
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シュレーディンガーの箱を、開けるということ。 ──深淵を覗き、男は確証を得る覚悟を決める。
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──淑女から渡った、手向け花の答えは決まっている。 紳士は意を決し… ──エスプリを『花束』に変え、淑女に手向け返した。
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アルフレッドは、警戒心が薄れた良子をまじまじと見られるようになり…気づいたことがある。 「無頓着だな…髪も服も。」 伸びきってしまっている乱れた長い黒髪、血汚れがあるままの不潔な白いシャツ…そして丈の合わない不自然なズボン。 よく見ると、白シャツのボタンはすべて右についている ──どうやら、これは紳士服のようだ。
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助手席に乗り込んだ良子の服からは血と硝煙…… そして、仄かに煙草の匂いがした。 タールのきつくない…控えめで、かつ…繊細。 そんな煙の香りが、非喫煙者であるアルフレッドの鼻を軽くくすぐる。 ──まだ20代を軽く過ぎたであろうアルフレッドからすると、これは新鮮な感覚であることに違いない。
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アルフレッドは、彼女の言葉に納得しつつある自分が「毒されている」ことを実感せざるを得なかった。 「普通の人間」から離れた位置に、自分は来てしまったのであろう。 沖を流れた小舟は、海原を漂い『遭難』している。 赦すまじと考えるべきか──はたまた幸運なのか。 アルフレッドにはまだ、解らなかった。
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ワイルドターキーの12年、101プルーフの琥珀液。 ──50.5%、希釈は無論なし。 瞬く間に吸い込まれ、溶けるように、いや、滑り込むように…700mlが跡形も残さず胃の中へと収まりきった。 それでもなお、この女は涼しい顔をしてにやにやと次の杯を見つめている……。
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良子は、グラスをテーブルに置き、満足げな表情を浮かべた。 あまりにも豪快な飲みっぷり…人の皮を被った何かのような。 人々はカウンターにいる『Bacchus』を褒め称え、歓声をあげた。 良子はそれに興味を示さず、無機質な笑みを口許に浮かべている。 酒場の喧騒の最中、2人の様子を興味深そうに眺めていていたバーテンダーの男が動く。 ──おもむろにカウンターの中から琥珀色の液体が注がれたグラスを取り出し、良子へと差し出した。
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「…やっぱりか、あんたここで働いてくれ」 その言葉に、アルフレッドも良子も驚きの表情を浮かべた。 「…どういう意味ですかマスター。」 「あんたの舌と鼻、そして聞き耳とウィットに富んだ会話… バーテンダーの素質があると見た」 店主は、確信に満ちた口調で言った。
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時刻は8:05PM── 轟音を立てて、一台のキャデラックが路地を飛び出した。 運転席にはアルフレッド、助手席には良子。 今宵の主役は、死神ではない。 死神に「雇われていたはず」の…臆病者である
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スペイン・バルセロナに『幾度かの』夜の帳が降り… 繰り返し、日と月が互いを追いかけて ……あの逃避行から8年の歳月が流れた。
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言葉では言い表せない、深い絆を育む時間を重ねたふたりは年を取り ……互いへの思いを成熟させつつあった。 だが、言い出せない。 『罪』を共有する覚悟が…お互いにできていない。 だからこそ、互いの首を預けることは ──伴侶になることは、しなかった。 それも、互いのためでありこの行いへの『罰』なのだろう。